Yageta Law Office

建設・不動産会社の法務

不動産事業者のための法律相談

民法改正:不動産売主の瑕疵担保責任の変更

平成29年5月26日に改正民法が成立しましたが,不動産販売会社にとって重要な改正として,売買契約における売主の瑕疵担保責任の変更があります。

「瑕疵」から「契約不適合」へ

現行民法では売主が責任を負うのは「目的物に隠れた瑕疵があったとき」(瑕疵)ですが(現行法570条),改正民法では「目的物が種類,品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」(契約不適合)に変更されます(改正法562条)。ただし,この点は,実質的変化はないと考えられています。

無過失責任から過失責任への変更

現行民法では,瑕疵について,売主は,無過失で損害賠償責任を負います(現行法566条)。売主は無過失を立証しても損害賠償責任を免れないということです。

しかし,改正民法では,契約不適合について,売主の責めに帰することができない事由によるものであるときは,損害賠償責任を負いません(改正法564条,415条)。売主は,無過失を立証して責任を免れることができます。不動産売買契約の条項を改訂し明確にしておく必要があります。

無過失責任から過失責任への変更への影響はあまりないとの意見もあります。しかし,不動産販売会社は無過失なら責任を負わないとなれば,過失の有無を巡る紛争が生じることになり,瑕疵について売主買主間の紛争が長期化するおそれがあります。また,不動産販売会社が無過失であれば,買主が設計事務所・施工会社を直接訴えることもありえるので,設計事務所・施工会社にとっても重要な変更になります。

買主側からすると,これまで瑕疵の立証ができれば売主の責任を追及できたところ,売主の過失の有無が争点が加わることで,紛争解決時間・コストが増大し,速やかな賠償が得られなくなるおそれがあります。買主にとって,不動産販売会社がどこまで責任を負うかが,不動産販売会社の選択に重要な要素となります。

なお,買主の売主に対する目的物の修補・代替物の引き渡し・不足物の引渡しによる履行の追完請求は,無過失責任ですので,無過失を立証して責任を免れることはできません(改正法562条)。

民法改正:請負会社の担保責任の変更

改正民法では,請負契約についても,担保責任の変更があります。

売買契約の担保責任と同じに

現行民法では,請負人の担保責任を独自に定めています(現行法634条)。しかし,改正民法では,請負契約独自の規定をなくし,売買契約の担保責任の規定を準用することにしました(改正法559条)。これにより,請負人の担保責任は,売買契約の売主と同じになります。

無過失責任から過失責任への変更

改正法では,請負契約における請負人の担保責任は,売買契約における売主の担保責任と同じとなるため,請負人は,無過失を立証できれば,損害賠償責任を免れることができることになります。

修補等の追完請求に対する責任が無過失責任である点も売買契約の場合と同じです。

不動産事業と損害賠償責任

建築基準法令の違反のマンション建設・販売により企業は莫大な損害賠償を負います。

事案と通じてリスクを把握し,適切な予防措置を講じることが大切です。

事例:文京区小石川の高級マンション

当事務所の目と鼻の先ににある文京区小石川にある高級分譲マンション(ル・サンク小石川)ですが,分譲完了後,引渡を目の前にして建築確認が取り消された事案です(東京都建築審査会平成28年11月2日裁決)。

マンションには「避難階」(直接地上へ通ずる出入り口のある階)が必要ですが(建築基準法7の6Ⅰ,同施行令13①),地上8階・地下2階・総戸数107戸の問題のマンションは,傾斜地に坂道に沿って建設されているため,地下2階から地上2階までのすべての階をすべて避難階とし,そのうち1階の避難階には2.5メートル下にスロープでつながった大規模の駐車場が設けられています。

ここで,東京都建築安全条例32条6号は「(大規模の駐車場を)避難階以外に設ける場合は,(中略)避難階又は地上に通じる直接階段を設け,避難階段とすること」とされています。

設計では,駐車場は避難階にあたり,「避難階以外に設ける場合」にあたらないとして「避難階段」を設けませんでした。そして,建築確認はこの設計を認めて出されています。

しかし,駐車場が避難階にあたらない,すなわち「避難階以外に設ける場合」にあたる場合,問題のマンションは駐車場と避難階である1階との間には高低差2.5メートルのスロープしかありませんので「避難階段」が設けられていないことになり,法令違反になります。

近隣住民からの審査請求を受けて,建築審査会は,地上と駐車場との高低差が2.5メートルあり,直接の通路が車用のスロープしかないこと等から避難時に有効に機能するとは認められないとして,駐車場は避難階にあたらないとし,東京都建築安全条例32条6号で定められた「避難階段」が設けられていないとして,建築確認を取り消しました(東京都建築審査会平成28年11月2日裁決)。

では,避難階段を追加で設ければよいかというと本件はそう簡単ではありません。建築確認を受けた後,文京区が高さ条例により制限を設けたため,現在の条例では,問題のマンションは高さ制限を超えることになり,新たに建築確認を申請する場合,2階分の減築が必要になる可能性があるという問題が生じるのです。

不動産会社は,分譲が完了していたため,違約金を支払って契約を解除し,裁決については現在,裁決取消訴訟を行っているとのことです。

訴訟に相当の時間はかかると予想され,訴訟で勝っても負けても,不動産会社は,莫大な損害を被ることになります。

安全面を考えれば,設計に無理がなかったか検討する必要があります。

事例:新宿区のたぬきの森のマンション

新宿区にある分譲マンションですが,東京都安全条例に基づく新宿区長の安全認定に違法があるとして建築確認が取り消された事案です(最高裁判決平成21年12月17日)。

東京都建築安全条例4条1項は,延べ面積が2000㎡超3000㎡以下の建築物は8m以上道路に接しなければならないと規定しています。ただし,この規程には緩和規定(抜け道)があり,同条3項で,建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事(区長に権限委任されている)が安全上支障がないと認めた場合は適用が除外されるとされています(安全認定)。

問題のマンションは,延べ面積は約2820㎡であるため,本来,同条例4条1項により,8m以上道路に接する必要がありますが,このマンションは,最小幅員約4メートルの路地状敷地のみで道路に通じていたので,そのままでは建設できません。しかし,新宿区長が同条3項により,安全上支障がないと認定し,建築確認が下りていました。

周辺住民が建築確認の取消訴訟を提起したところ,東京高裁は,区長の安全認定は合理的根拠を欠き違法であるとし,原則通り,東京都建築安全条例4条1項による8m以上道路に接している必要があるところ,接していないとして,建築確認を取り消しまし(東京高裁判決平成21年1月14日),最高裁はその判断を支持しました。

本件は,緩和規定を用いて,本来では建設できない規模のマンションを建築しようとしたもので,かつ,新宿区長の安全認定を得ていましたが,裁判所は,建築確認を取り消しました。

特定行政庁が適法だと判断しても,裁判所がその判断を取り消す可能性があることからすれば,緩和規定を用いれば大丈夫という考えは危険ということになります。

事例:世田谷区の旗竿地上のマンション

マンションが幅員約2mの路地状の敷地でのみ道路に接するいわゆる「旗竿地」(敷地が旗竿のような形をした土地)に計画された地上1階・地上3階建ての分譲マンションです。道路からマンションの非常用進入口までは,約25mありました。

3階建て以上のマンションについて,旧建設省は「道路から非常用進入口等までの延長が20m以下であること」との事務連絡を出しましたが(旧建設省事務連絡),東京都は「東京都では道路から非常用進入口等までの延長が20m以下であるという要件について特に規制しておらず,今後とも従来通りの扱いとして支障がない」との事務連絡を出していました(東京都事務連絡)。

旧建設省事務連絡によれば,道路まで約25mあるので,3階建て以上の本件マンションは建てられませんが,東京都事務連絡によれば,特に規制はないので,3階建て以上の本件マンションは建てられることになります。

建築主から確認申請を受けた指定確認検査機関は,世田谷区から,進入口の設置位置が道路から20mを超えていると指摘されるとともに,事務連絡レベルであるため強制はできないが旧建設省事務連絡には適合していないとの指摘を受けましたが,不適合の指摘を受けたのみで是正を求められなかったので,建築計画の確認に係る審査をするに際して東京都事務連絡を適用することは特定行政庁である世田谷区も了解していると考えて,設計を変更せず,確認済証を交付しました。

しかし,周辺住民が建築確認取消を求める審査請求をしたところ,建築審査会は,旧建設省事務連絡に適合しないことを理由に建築確認を取り消す裁決をし確定しました。

そのため,建築主は,地上2階建てのマンションに変更して建設し分譲せざるを得なくなり,指定確認検査機関に対して,確認検査業務における善管注意義務違反があったとして,設計変更に要した費用など約9000万円の債務不履行に基づく損害賠償請求訴訟を提起しました。

判決’東京地方裁判所判決平成27年6月19日)は,指定確認検査機関は,指定検査確認機関がなした確認に関する事務に過誤があった場合,債務不履行に基づく損害賠償責任を負うとしました。

ただし,本件では,指定確認検査機関に善管注意義務違反はないとして,建築主の請求を棄却したため,建築主は,損害約9000万円の全額を負担することになりました。

建築基準法施行令所定の要件解釈が分かれる場合,特定行政庁の見解を十分に確認しておく必要があります。