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財産の換価基準(清算価値)

概略

破産では財産は換価して債権者へ配当が原則ですが,破産法の定めと裁判所(東京地裁)の運用状況から換価・不換価の見込みを付けることができます。

 

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基本的な考え方

自己破産は,破産した時点の財産は換価(債権の取り立てを含む)をして債権者に配当し,残った債務は免責するという手続です。この手続の性格からは,破産した時点の財産は全て換価の対象財産(破産財団)になるということになります。

しかし,すべての財産を処分してしまうと破産者の生活が成り立ちません。また,換価に値しない財産はあえて換価する必要はありません。そこで,破産法では一定の財産は換価の対象財産(破産財団)に含まれない財産(自由財産)とされ,この法律上の自由財産に加えて裁判所の判断で自由財産の範囲を広げること(自由財産の拡張)が認められています。

破産法上自由財産とされる財産は明記されているので申立前に換価されない範囲が明確に分かります。これに対し,裁判所による自由財産の拡張については全国的に一律の基準はなく,個々の裁判所の運用に任されています。一般的な運用基準はありますが,法律上換価されないとされているわけではないので事案によっては一般的な運用基準と異なる対応がされることがあります。

自己破産を検討される方は,「どのような財団が換価されるか」ではなく,「どのような財産は換価されないか(又はされない見込みか)」という視点で手続を理解することが必要です。多くを期待して手続を選択するのはやめておいた方が良いので,基本的には生活に必要な最低限は残されると理解しておきましょう。

なお,換価対象となる財産は自己破産した時点の財産ですから,自己破産した後の原因に基づいて取得した財産は換価の対象になりません。

「換価」とは

財産の換価は,財産を処分してお金に換えることと未回収の債権を回収することが原則ですが,申立時に納める20万円のほかに財産額に達するまでの金額を追加納付する(破産財団に組み入れる)ことで売却・債権回収に代えることもあります。この場合,破産決定後の収入(自由財産)から捻出して費用を追加するということになります。

例えば,自動車の時価が35万円の場合,20万円を超える価値があるので本来は売却されますが,破産決定後の収入で15万円を追加すれば,申立時に納める20万円と合計して自動車の時価に達するので自動車は売却されずに済む,あるいは保険解約返戻金が40万円ある場合に本来保険を解約して返戻金を回収することになるところ,20万円を追加することで解約を免れるなどです。

ただし,破産財団への組み入れで済ますかどうかは破産管財人の意見を聞いて裁判所が判断することになります。

法律上の自由財産

破産法では換価対象にならない財産が定められています。この財産に該当する場合は裁判所の判断を待つまでもなく当然に自由財産になります。

① 現金99万円まで

99万円までの現金は破産財団には含まれません。あくまでも現金であり預貯金ではないので注意して下さい。しかし,自己破産をする方の多くはその月の生活費程度の現金しかもっていないが普通です。多額の現金をもって自己破産を申し立てるのは,申立準備の段階で過払い金等の債権を回収して代理人が預かっている場合が多いと思います。回収した過払い金は申立前には申立費用に充てられますし,破産管財人に引き継いでも99万円までの現金なら,手続終了後に返還してもらえます。自己破産でも過払い金の回収は重要な意味を持つことになるので,過払い金を最大限に回収することは重要です。

ここで注意が必要なのは,99万円までの現金は換価されないからといって,99万円の現金を持っている方が同時廃止で申し立てることはできないということです。33万円以上の現金がある場合は管財事件になります。なお,東京地裁では,管財事件になる現金の額について,H29.3.31までは20万円以上でしたが,H29.4.1からは33万円以上に代わりました。

したがって,99万円を破産管財人に引き継ぎ,破産管財人の報酬(20万円以上)等が控除された残額が手続終了後に返還されることになります。

② 生活に欠くことができない家財道具

生活を営む上で欠くことができない家財道具は換価対象になりません。どこまでが「欠くことができない」と言えるかは明確ではありませんが,東京地裁では,欠くことができない家財道具以外の家財道具も原則として換価しない運用がされているので,原則として家財道具は換価されないと考えて良いでしょう。

③ 法律上差し押さえることができない財産(差押え禁止財産)

債務者やその家族の生活保障等の社会政策的配慮その他の目的から法律上差押えが禁止されている財産については,同様の目的から,破産手続においても換価対象にされません。差押禁止財産の種類は多くあるのですべてを挙げることはできませんが,ひとまず以下のものを押さえておき,詳しくはご相談時にお尋ね下さい。

  1. 給与,賃金,俸給,退職年金,賞与など
  2. 私的年金契約に基づき生命保険会社等から生計を維持するため継続的に支払を受けている金銭
  3. 国民年金法・厚生年金法等による社会保険としての公的年金
  4. 健康保険法・雇用保険法・介護保険法等による医療保険その他の部門の社会保険
  5. 生活保護法・児童福祉法・母子保健法・老人保健法等による公的扶助・援助に関する給付
  6. 労働基準法・自動車損害賠償保険法などによる災害補償・損害賠償等の請求権

自由財産の拡張

裁判所は,破産法で定められた自由財産のほかに換価しない財産を定めることができます(自由財産の拡張)。これは裁判所が破産管財人の意見を聞いて決定しますが,一般的な運用基準があり,その基準に該当すれば,特別な事情がない限り換価されないという見込みを立てることができます。ここでは東京地方裁判所の運用基準を説明します。

運用基準は,(1)原則として換価しない財産と(2)場合によっては換価しない財産に分けられますが,注意が必要なのは,これらの財産は破産法で自由財産と定められているものではないので,原則として換価しない財産であっても事案によっては換価されることがあります。あくまで一般的な運用基準として見込みを立てることが必要です。

(1) 原則として換価しない財産

① 残高が20万円以下の預貯金

複数の預金口座の合計額で判断します。預貯金は,名義が他人名義でも実質的には破産者の預貯金である場合は対象になります(例えば子供名義の預貯金など)。
反対に,名義が破産者であっても実質的には他人の預貯金の場合は対象になりません(両親が破産者名義で積み立てた預貯金等)。ただし,名義が破産者である以上,他人の預貯金であることを明らかにできないと対象にされます。

② 見込額が20万円以下の生命保険解約返戻金

複数の保険契約の総額で判断します。ただし,複数を合計して20万円を超える場合でも解約して回収するかどうかは,事案ごとに裁判所が破産管財人の意見を聞いて判断します。

③ 処分見込額が20万円以下の自動車

20万円以下の自動車は換価されません。減価償却期間を過ぎている場合には原則として無価値とされます(普通乗用車なら6年)。申立時には時価を明らかにしなければならないので業者に査定書を作ってもらう必要があります。

④ 居住用家屋の敷金債権

⑤ 電話加入権

⑥ 支払見込額の8分の1相当額が20万円以下である退職金債権

ここでいう退職金債権の額とは今勤務先を辞めたら支払われることになる退職金額です。その金額の8分の1の額が20万円以下なら換価されませんが,超えると次の⑦の額まで換価されます。ここで換価とは勤務先を辞めてもらって退職金の支払を受けるということではありません。その額に達するまで費用を追加で納めるということになります。

例えば,見込み退職金額の8分の1の額が30万円なら,予納金20万円のほかに10万円を追加することになり,多くは破産決定後の収入から捻出することになると思います。

見込み退職金額は勤務先に頼んで退職金計算書を発行してもらう必要があります。勤務先の退職金規程などで金額を算出できるのであればその規程のコピーでも足ります。

なお,破産決定後(終了までに)退職した場合は,退職金額の4分の1が20万円以下であれば換価されませんが,その額が20万円を超える場合は4分の1は換価対象となり,4分の3は対象にならないことになります。

⑦ 支払見込み額の8分の1相当額が20万円を超える退職金債権の8分の7

例えば,今勤務先を辞めたら300万円の退職金が出る場合,その8分の1の額は37万5千円なので⑥の基準には当たりません。そこで,この8分の1の額は換価の対象になります。残りの8分の7の額は対象になりません。

⑧ 生活に欠くことができない家財道具以外の家財道具

生活に欠くことができない家財道具は破産法所定の自由財産とされていますが,それ以外の家財道具については本来であれば換価対象になります。しかし,東京地裁では原則として換価しな運用がされているので家財道具は換価されないと考えて良いでしょう。ただし,生活に欠くことができないものではなく,かつ非常に高価なものは換価される可能性があります。

(2)場合によっては換価しない財産

破産法所定の自由財産と上記(1)の原則として換価しない財産以外の財産は,原則として換価されます。しかし,事案によっては,裁判所が破産管財人の意見を聞いて換価しないことが相当と認められるときは換価しない場合があります。