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不動産担保ローンへの切替事案

問題点

ある会社からカードローンで借り入れていたところ,その会社から不動産担保ローンへの切替えを勧められて,カードローン取引を不動産取引に切り替えることがあります。このとき,カードローン取引と不動産担保ローンとを一連の取引として一連計算できるかという問題があります。

不動産担保ローンへの切替はカードローンの当時の残高を組み込んだ「借り換え」である場合が多く,この借り換え部分について利用者は実際に貸金業者へ渡したお金も,受け取ったお金もありません。帳簿上の操作としてカードローンが完済され,不動産担保ローンが新たに始まったことにされているに過ぎません。特に貸金業者からの勧誘により切り替えられた場合が多く,このような場合にまで個別計算の不利益を受けるのは不公平となります。特に切替時期が10年以上前の場合,個別計算では,一方でカードローンの過払い金には消滅時効が成立し,他方で不動産担保ローンは多くは法定利率内の取引のため過払い金がない(又は少額)か債務が残るという不都合が生じます。

不動産担保ローンへの切替が問題となるのは,CFJ(アイク),アイフル,アコムなどですが,特にCFJは全件熱心に争ってきます。

最高裁判所判決平成24年9月11日

平成24年9月11日,最高裁判所は,CFJの不動産担保切替事案について,カードローン取引との一連性を認めた原審を破棄しました。CFJの勧誘による切替えや不動産担保ローンの貸付金からのカードローン取引の完済(実際には差額の交付をうけたこと)を前提事実としながら一連性を否定しており契約条件が大きく異なることを重視しています。これにより不動産担保取引切替事案について一連性の立証が難しくなります。後記補足で述べる充当指定の推認などを主張していく必要があります。

また,貸金業者は本判決の射程を不動産担保切替事案を超えて解釈し,以下のような主張・対応をしてくることが予想され,警戒が必要です。

  1. リボルビング払いから証書貸付へ変更した場合や債務弁済契約をした場合など契約条件の変更がある部分で分断を主張して来る(裁判所に契約条件の違いを重視する傾向が生じるおそれ)
  2. すでに過払金が発生している顧客に対して過払金返還債務の消滅時効を進行させるため,形式の異なる契約への切替えを勧める。例えば,過払い状態のリボルビング払い取引中の顧客に,利率免除又は低利率を条件に単純な分割払い契約へ変更を勧めるなど(過払金の時効を進行させる一方で存在しない債務が復活させようと試みる)。

※以下は,一部を除いて,上記最高裁判決前の記事です。

CFJ事案1(カードローン →不動産担保ローン→カードローン)

①最高裁判所決定平成23年9月29日(当事務所代理事案②の上告受理申立事件)

②東京高等裁判所判決平成23年3月17日(当事務所代理事件③の控訴審)

③東京地方裁判所判決平成22年8月30日(当事務所代理事件)

当事務所が代理した事案で,カードローンから不動産担保ローンへ,更にカードローンへ切り替えられた事案です。いずれも空白期間がない事案です。

東京高等裁判所は,平成23年3月17日,それぞれ個別の取引であるとのCFJの主張を排斥し,一連性を肯定した東京地方裁判所判決平成22年8月25日を維持しました。 本件は,カードローン取引から不動産担保取引への切替えだけでなく,さらに不動産担保取引から再度カードローン取引へ切り替えられた事案であり,2箇所で一連性が争われました。

東京高裁は,カードローン取引1から不動産担保取引への切替えは明らかに借換えであり,利率の違いは経済情勢や担保権の有無に左右される性質のものであるからこれが一致しなければ取引の一連性を肯定できないものではなく,また,担保の有無が取引の一連性を否定する決定的な理由になるものではないとし,カードローン取引1と不動産担保取引への切替えに一連性を認めました。また,不動産担保取引からカードローン取引2への切替えについては,不動産担保取引の終了とカードローン取引2の開始が同日であること,カードローン取引2の開始が契約者の希望によるもので特別な審査は必要なかったこと,カードローン取引1と同じ番号のカードが発行されていること等から一連性を認めました。なお,不動産担保取引の利率よりもカードローン取引2の利率が高いことについては一連性を否定する決定的な理由にならないと判断しました。

この控訴審判決対してCFJは上告受理申立を行いましたが、最高裁判所は平成23年9月29日CFJの上告を受理しないとの決定をし、原判決が確定しました。

CFJ事案2(カードローン→不動産担保ローン(空白)カードローン)

④東京地方裁判所判決平成24年2月3日(当事務所代理事案)

カードローンから不動産担保ローンへの切替え部分に空白期間がない点(同日処理の点)は事案1と同じですが,事案1が不動産担保ローンからカードローンへの切替え部分も空白期間がないのに対して,本件は,不動産担保ローンを完済し,196日後にカードローンを再開したという事案です。

本判決は,不動産担保ローンへの切替えは「借り換えが行われたに過ぎないことが明らかであるから,第1取引(※カードローン)と第2取引(不動産担保ローン)の間に,契約の種類,貸付条件,担保の存在など相違があることを考慮しても,これらの取引は事実上1個の連続した貸付取引であると評価するのが相当である」として一連性を認め,第2取引(不動産担保ローン)と第3取引(カードローン)についても,「第3取引は,第1取引と一体と評価すべき第2取引が終了した後,わずか196日の期間を空けただけで開始されているから,第2取引と第3取引の間に,契約の種類,貸付条件,担保の存否などの相違があることを考慮しても,これらの取引は事実上1個の連続した取引であると評価するのが相当である」として一連性を認めました(第1取引+第2取引=約5年4か月)

CFJ事案3(カードローン → 不動産担保ローン)

⑤東京地方裁判所判決平成22年8月25日(当事務所代理事案)(控訴審にて和解成立)

当事務所が代理した事案でカードローン取引を不動産担保取引に同日に切り替えた典型的な事案です。

東京地方裁判所判決平成22年8月25日は,末尾に引用の判示のとおり,両取引の契約形態・契約条件の違いにもかかわらず,取引の一連性を認めました。

CFJの不動産担保切替事案については契約形態・契約条件の違いという形式面を重視して一連性を否定する判例が複数あり,本件でも,CFJはそれら一連性を否定した裁判例を多数提出して一連性を争ってきました。本件は,切替時期が過払い金返還請求に着手した時より10年以上前であったため,一連性が否定されるとカードローン取引について発生した過払い金は時効となり,不動産担保切ローンは当初貸付金額から計算することになるため,一連計算するか,個別計算するかで金額が100万円以上異なります。

カードローン取引と不動産担保取引は契約態様・契約条件が異なることは明らかであり,CFJは両取引の契約書やカードローン取引の残債務が精算された書類を提出してくるので,裁判所に形式面のみを捉えられると同日切替えにもかかわらず一連性が否定される可能性が高くなります。実質的には借増し(借換え)であるということを立証していく必要があります。立証活動で重要なのは,裁判所の注意を実質面に向けさせることです。

不動産担保取引では,カードローンと異なり,申込むと即日審査が通って即日融資が実効されるなどということはありません。事前に担保不動産の評価,融資可能額の設定,抵当権設定書類の準備が必要であり,これらの手続はカードローン取引中になされています。

そこで,CFJに対して,不動産担保取引の申込書,不動産担保ローン稟議書等の提出を求めることが必要になります。切替えであれば申込書も稟議書も融資実行の前に作成されているはずです。本件では申込書は9日前,稟議書は前日でした。

そして,稟議書には不動産担保取引の貸付金額の内訳が記載されていますが,切替えの場合,その内訳にカードローン取引の残高も記載されています。本件では,カードローン取引の融資実行日の残高と他社借入額(まとめる額),諸費用を合算すると不動産担保取引の融資額と一致しました。

カードローン取引の残高が組み込まれていることを明らかにできれば,実質的には借増し(借換え)という判断がされる可能性が高くなり,また,本判決のように更に両取引は「強く関連づけられている」として一連計算が認めらる可能性が高くなります。なお,従前の取引を新たな取引に借り換えた場合の法律関係は従前の取引について法的に有効な残高と新たに貸し付けた金額の合計額を貸付額として計算するという貸金業法施行時からの多数説(貸金業関係執務資料(民裁資料159号))からすれば借換えであれば本来一連計算すべきものです。

CFJのカードローン取引と不動産担保取引への切替事案では高裁を含め一連性を否定した複数の判決があり,CFJは多数の判決を提出して一連性を争ってきます。しかし,CFJが提出した判決を読むとそれらの審理で上記書類の提出がなされ,十分な主張立証活動がされていたか疑問に思われ,そのため両取引の形式面のみを捉えられて一連性が否定されたのではないかとも思われます。

本件では審理中に上級審である高裁で一連性を否定した判例が出されCFJもその判決を提出しましたが,東京地裁は一連性を認めています。事実認定は主張立証活動の程度により判断が分かれるため,同様の事案について一連性を否定する多数の判例が提出されたからと言ってあきらめず,十分な立証活動をすることが重要であると言えます。

ポイント

「借換え」であることの主張立証が重要になります。

裁判官に借り換えであるとの心証を抱かすことができれば一連性は肯定されると思います。利用者が当時の資料を持っていることは少ないため,不動産担保稟議書など必要な資料を貸金業者側から提出させる必要があります。 最高裁H20.1.18判決が挙げた諸事情を形式的に主張しているだけでは,一連性が否定されるリスクが高くなります。

※最高裁判決H24.9.11により,単なる借換えの主張立証だけでは不十分となります。

補足

1.貸付金の成立範囲(準消費貸借契約の成立範囲)の問題として処理

本論点は,一般的には基本契約が2つある場合における既発生の過払い金の新たな貸付金への充当合意の有無として論じられています(上記判決も同様です)。しかし,場合により取引が別(不動産担保取引部分の計算のみ)でも計算上の過払い金額は一連計算の額と同じであるという主張も可能です。すなわち,不動産担保取引の貸付額はカードローン取引の当時の残高を組み込んでいる,いわゆる「借換え」であるため,カードローン取引の法定利息計算後の残高(利限残高)がある状態で不動産担保取引に借り換えられている場合,不動産担保取引の貸付額は,カードローン取引の残高を消費貸借の目的とする準消費貸借契約と現金交付による消費貸借契約の混合契約ということができます。

準消費貸借契約部分については当時有効に成立するカードローン残高(利限残高)を超える部分は旧債務の不存在により無効となり,カードローンの利限残高と現金交付額の合計額が有効に成立する不動産担保取引の融資額となるはずです。そして,この金額はカードローン取引と一連計算した場合の切替え時における利限残高と一致します。そのため,カードローン取引と不動産担保取引は別という前提で不動産担保取引のみを計算しても計算結果はカードローン取引との一連計算と同じになります。一連性の問題を,不動産担保取引の貸付額の成立範囲(準消費貸借契約の成立範囲)の問題にするということになります(カードローンの過払い金という問題は出てこない)。

そもそも,「借換え」は準消費貸借契約であるのに,消費者金融の取引の場合だけ,かならず一連性の問題として扱わなくてはならない理由はありません。カードローンの利限残高がある状態で不動産担保取引へ借り換えた場合には,一連性の問題(充当合意の有無の問題)よりも,不動産担保取引の貸付金の成立範囲という問題が論理的に先行すると考えられます。充当合意についての最高裁判決に引きづられて,借り換え=準消費貸借という基本的な部分が無視されてしまっています。
借り換えであるのに,不動産担保取引の貸付額を額面通り有効とすると旧債務の存在なくして準消費貸借契約を認めることになります。借り換えで個別計算することは,事実上,新たな取引については旧債務の存在なくして準消費貸借契約の成立を肯定し,旧債務が存在していなかったのに債務を負ってしまった部分については別途不当利得返還請求権を取得するというに等しく,準消費貸借契約の原則的な考え方とも整合せず,そのようなややこしい権利関係にするのであれば,単純に一連計算をすれば足ります。

なお,既にカードローン取引が過払の状態で不動産担保取引へ借り換えた場合には,カードローン取引の利限残高は0円であるので,有効に成立する不動産担保取引の貸付額は現金交付分のみであり,借り換え前に既に発生してた過払い金額について充当合意の有無が問題となると考えられます。
対して,借り換えではなく実際にカードローン取引を完済し,同日,別途不動産担保取引の融資を受けた場合には(見たことはありませんが),一般に論じられる,充当合意に有無(一連性)のみが問題となりますが,次に述べるように,実際の切替えの経過から充当指定の問題として処理することも出来ます。

2.充当指定の問題として処理

一連性の問題は,いわゆる発生した過払金のその後の貸付への充当合意の有無の問題であるので,前の取引が完済され過払金が発生した後に新たな貸付がされた場合が念頭に置かれています。

しかし,ほとんどの不動産担保ローンへの切替えは,不動産担保ローンの貸付金でカードローンの残高が完済されたことになっており,後の取引の貸付が前の取引の完済よりも先になります。カードローンの過払金の発生が不動産担保ローンの貸付の後であるということです。よって,発生した過払金がその後の新たな貸付金へ充当されるかという通常の一連性の議論は当てはまらないことになり,カードローンの完済により過払金が発生したとき不動産担保ローンの債務が存在する,すわなち,過払金発生時に他に債務が存在する場合の問題と捉えることが出来ます。

例えば,不動産担保ローン契約をして300万円を借り入れ,即日その中から50万円のカードローンを返済したとします。ここでカードローンの法的に有効な残高が30万円であった場合,30万円を超える部分20万円は存在しない債務に対する弁済であり充当指定は無効です。

では,カードローンへの充当指定が無効になった20万円について,不動産担保ローンの残高300万円への充当指定は推認できないでしょうか。

最高裁は,同じ基本契約に基づく複数の貸付については,ある債務への弁済で過払金が発生した場合,当時他に存在する債務に充当されるとしています。基本契約が同じだから充当されるのではなく,基本契約が同じであれば借り主は借入総額の減少を望み,複数の権利関係が併存する事態を望まないため,当時他に存在する債務への充当指定が推認されるからです。

不動産担保ローンへの切替えは,複数の借り入れをまとめ,返済の負担を軽減するために申し込まれます。借り入れの一本化と返済の軽減化を目的とする以上,借り主が借入総額の減少を望み,複数の権利関係が併存する事態を望まない意思を有していたことは明らかです。よって,カードローンへの充当指定が無効となった20万円については,借り主の合理的意思解釈として,当時存在する不動産担保ローンの貸付金への充当指定が推認できます。

実際,不動産担保ローンへの充当指定が推認できないとなると,借り主は,カードローンの過払金20万円については年5%の利息しかつかないまま消滅時効期間が進行するにまかせ,充当指定すれば減ったはずの不動産担保ローンの貸付金20万円部分については年5%以上(15%等)の利息を支払っていくつもりであったことになりますが,借り入れの一本化,返済の軽減化のため不動産担保ローンへ切り替えた借り主の意思としてはあり得ないことであり,経験則に反します。

よって,不動産担保ローンへの貸付金でカードローンを完済したのであれば,カードローンについて発生した過払金は,不動産担保ローンの貸付金へ充当指定されたとし,結果,一連計算した場合と同じ結論を導くことができます。

なお,切替時点ですでにカードローンが過払い状態であった場合には,その部分については通常の一連性(充当合意の有無)の問題となります。