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貸付停止措置と過払金の消滅時効

「貸付停止措置時=消滅時効の起算点」ではありません。
裁判では簡単には時効は認められません。
「貸付停止で10年以上前の過払金は時効」と言われたら,当事務所へご相談下さい。

問題の所在

「過払金の消滅時効がいつから進行するか」。この点については,最高裁判決平成21年1月22日は,過払金充当合意がある継続的な金銭消費貸借取引では,原則として,取引の終了時からと判断しました。(参考:過払金の消滅時効)

過払金充当合意とは,発生した過払金をその後の新たな貸付に充当する合意で,契約書や規約に明記されていなくても基本契約(典型はリボルビング払い方式)の合理的な解釈として認められるものです。

最高裁は,この過払金充当合意の内容を更に敷えんし,取引の継続中は,発生した過払金につきその都度返還請求権を行使するのではなく,過払金は将来債務に充当するために温存し,取引終了時に精算するというのが契約当事者の合理的解釈であり,過払金返還請求権の精算方法及び精算時期について取引終了時に一括精算する旨の内容が含まれるものと解したものです(最高裁判例解説民事編(平成21年度)82頁)。

その結果,過払金は取引が終了しない限り,10年以上前に発生したものであっても消滅時効は進行しないのが原則となりました。

ただし,最高裁は,例外として「特段の事情」がある場合は,取引が終了する前に過払金の消滅時効が進行するとも判断しています。

貸金業者は,信用状況の悪化や総量規制あるいは本人の希望などにより貸付けを停止した場合,貸付停止措置は「特段の事情」に当たり,貸付停止措置をとった時から過払金の消滅時効は進行するとして,取引終了からは10年っていなくても,10年以上前に発生している過払金には消滅時効が成立すると主張してきます。

貸付停止が「特段の事情」になるとする貸金業者の主張の根拠は,最高裁は「過払金充当合意は新たな借入金債務の発生が見込まれる限り過払金はその都度精算しない趣旨を含む」としているので,そうであれば,新たな借入金債務の発生が見込まれなくなったのであれば,過払金は発生する都度精算するものになるので,消滅時効は取引終了を待たずに進行する「特段の事情」に該当するというところにあります。

なお,貸金業者の中には,新たな借入金債務の発生が見込まれなくなった時点(貸付停止措置を執った時点)が「取引終了時」であると主張する者もいますが,最高裁は「継続的に借入れと返済を繰り返す金銭消費貸借取引」を「継続的な金銭消費貸借取引」と呼び,その「取引終了時」を消滅時効の起算点とするとして,返済まで含めて「取引」としているので,その主張は正しくありません。

貸付停止措置による消滅時効の主張は,貸金業者側からすると返還する過払金を大きく減らせる有効な手段になるので積極的に主張してきます。

貸金業者側の主張をそのまま受け入れて10年経っていない過払金の回収だけで済ます事務所も多くあります。最近,当事務所には,「貸付停止による時効の主張がされたので10年以上前の過払金は時効。勝てる見込みはないと説明された。本当にそうなのですか。」という相談が増えています。

では,貸付停止による消滅時効の主張はどの程度,裁判で認められるものなのでしょうか。

裁判では消滅時効の主張は簡単には認められない

実際には裁判では,貸付停止措置による消滅時効の主張は簡単には認められません。

訴訟をしない方針あるいは訴訟経験が少ない事務所の場合,貸金業者側が応じる範囲での和解しかできないため,まるで勝ち目がないような争点であるかのような説明して依頼者を説得しているに過ぎません。

貸付停止措置がされた事案で,貸付停止による消滅時効の主張を否定した裁判例も多くあります。

特に,信用状況悪化や総量規制などで単に貸付停止がされただけの事案では,貸金業者が貸付停止による消滅時効を主張してきたからと言って,諦める必要は全くないのです。

    (貸金業者の時効の主張を否定した裁判例)
  • 東京高等裁判所判決令和3年4月13日(プロミス)※当事務所事案
  • 大阪地方裁判所判決令和3年3月25日(アイフル)
  • 東京地方裁判所判決令和3年1月22日(アイフル)
  • 東京地方裁判所判決令和2年10月27日(プロミス)※当事務所事案
  • 宮崎地方裁判所判決令和2年3月25日(CFJ)
  • 東京地方裁判所判決令和元年10月18日(CFJ)
  • 秋田地方裁判所判決令和元年8月9日(プロミス)
  • 大阪地方裁判所判決平成30年12月27日(プロミス)
  • 東京致傷裁判所判決平成30年1月29日(レイク)
  • 東京地方裁判所判決平成29年10月11日(ノーローン)
  • 宮崎地方裁判所判決平成29年1月20日(アコム)
  • 東京高等裁判所判決平成26年3月27日(アコム)※当事務所事案
  • 東京地方裁判所判決平成25年12月18日(アコム)※当事務所事案
  • 福岡高等裁判所判決平成26年3月25日
  • 東京高等裁判所判決平成25年12月12日(アコム)
  • 東京高等裁判所判決平成25年5月9日(アコム)
  • 福岡高等裁判所判決平成25年3月14日(アコム)
  • 福岡高等裁判所判決平成24年5月31日
  • 仙台高等裁判所判決平成25年5月10日(アコム)
  • 大阪地方裁判所判決平成23年9月13日(アコム)
  • など

確かに和解契約をした場合や融資業務の廃業など特殊な事情が加わる事案では,貸付停止による消滅時効の争点は難しい争点になります。しかし,この争点が問題になる多くの事案は,信用状態の悪化や総量規制などを理由に単に貸付停止措置がとられただけの事案です。そのような単に貸付停止措置がとられた事案では,消滅時効の主張が否定される裁判例も多く存在します。それは,極度額の範囲で繰り返し借入ができる継続的な金銭消費貸借契約の性質によるものです。

極度額の設定・増減額・停止・停止解除を予定した契約

貸金業者の主張が裁判では直ちには認められないのは,契約上,貸付を停止した事由が解消されれば,貸付停止が解除できるようになっているからです。

極度額の範囲で繰り返し借入ができる継続的な金銭消費貸借契約は,取引中,極度額の設定,増減額,貸付停止,貸付停止解除が行われることが予定されている契約です。そのため,「貸付停止措置=新たな借入金債務の発生の見込みがなくなった状態」とは言えないのです。

貸金業者は,貸付停止措置が解除される具体的な見込みを立証しろと主張してきます。

最高裁は,新たな借入金債務の発生が見込まれなくなったか否かという事実問題ではなく,基本契約の一内容を成す過払金充当合意の効力の問題として取引終了時を時効の起算点と判断していますので,新たな借入金債務の発生の見込みは,あくまで契約上の見込みの問題です。

契約上,新たな借入金債務の発生の余地が残されているかという問題です。

例えば,アコムは会員規約23条5項(R3.10.4版)では次のように定められています。

    アコム会員規約23条5項
  • 5.当社は、前々項により新たな貸付の停止を行った後、当該事由が解消されたことが認められた場合には、当社の判断により、新たな貸付の停止を解除することができるものとし、会員はその旨承認します。

プロミスは会員規約3条5項(R2.3.1版)で次のように定められています。

    プロミス会員規約3条5項
  • 5.当社は、お客様の信用状況に関する当社の審査により,当社が相当と認めた場合,当社は利用限度額を増額し,また,あらたな借入の停止を解除することができます。

他の多くの貸金業者も同様の規定を定めています。

なお,かつては規約上,貸付停止の解除については定めはなく,単に増額できるとか,減額(停止・中止を含む)した後にも増額できるなどという定めに止まるのが大半でした。しかし,この場合でも,利用限度額の設定は貸金業者側の専権であり,停止ができるなら解除できないことはなく,また,増額には停止解除も含まれると解されるので,貸付停止と貸付停止解除が予定された契約であることに変わりはありません。アコムやプロミスなど停止解除の規定を明記したのは,従前の運用を明確化したものと理解され,また,総量規制(貸付額は年収の3分1以下)がされたことで,年収額と貸付残額との関係で,貸付けを停止したり解除したりする場面が多くなったからと考えられます。

また,実際にほとんどの貸金業者の取引では,貸付停止と解除が頻繁に行われています。

例えば,クレジットカードを利用していてうっかり支払を遅れてしまった経験は多くの人があるでしょう。このとき滞納が解消されるまでは利用は停止されます。しかし,滞納を解消すると利用が再開されます。貸付停止措置を執ったときに,将来,貸付停止が解除されるかされないかは未定です。未定なら,貸付停止時に新たな借入金債務の発生の見込みがなくなったとは言えません。

このように,極度額の範囲で繰り返し借入ができる継続的な金銭消費貸借契約は,取引中,極度額の設定,増減額,停止,停止解除が行われることが予定されており,貸付停止措置を執った時点で,取引終了までに停止事由が解消され,停止が解除されないことは確定するものではありません。

契約の性質上,「貸付停止=新たな借入金債務の発生の見込みがなくなった状態」にはならないということです。

「特段の事情」の立証責任は貸金業者側にある

貸金業者は「貸付けを停止した」という事実が立証できれば,今度は原告側で貸付停止が解除される見込みの立証が立証できない限り,消滅時効の進行は認められると主張してきます。

しかし,「特段の事情」の存在の主張立証責任は,貸金業者側にあるので,貸金業者側で,仮に,その後,貸付停止事由が解消されたとしても停止を解除することがなくなったことを立証する必要があります。上記のような停止解除の定めがある場合には,その定めが適用されないことに確定したことが必要です。

そして,過払金充当合意は合意である以上,その解除もまた合意が必要なので,貸付停止を伝えただけでなく,仮に貸付停止事由が解消されたとしても停止を解除することないことをも伝える必要があります。

ところが,規約上,停止を解除できるようになっているので,貸付停止措置の時点で,仮に将来貸付停止事由が解消されても貸付停止を解除することはないと伝える例はまれです。

そのため,単に貸付停止措置を執った事案では,その後の事情の変化で貸付停止解除の余地があるとして,貸金業者側の主張は当然には認められていないのです。

貸付停止による時効を主張されたら当事務所へ

貸付停止による消滅時効の主張がされた場合に,これを否定して回収するには訴訟が必須です。

訴訟をせずに貸金業者側が応じる範囲で和解する方針の事務所では,貸金業者の主張を丸呑みして,10年以上前に発生した過払金は諦めざるを得ないでしょう。

最近は,弁護士・司法書士に依頼したところ,貸金業者から貸付停止による消滅時効が主張されたので10年経っていない僅かな過払金しか回収できないと言われ,当事務所へご相談に来られる方が増えています。

貸付停止による消滅時効は直ちには認められない争点であるのに,事案内容にかかわらず,勝訴の見込みがないと説明して貸金業者側の主張を飲むよう説得されたという例もあります。

例えば,ある事務所へ依頼したところ,過払金が500万円近く発生しているが貸付停止による消滅時効が成立するので10年分の過払金約50万円しか回収できない,勝訴できる見込みはないと説明されて当事務所へ相談に来られた方が来ます。取引内容,事案内容から貸金業者の主張をそのまま受け入れる必要がある事案でないので,当事務所で受任し,訴訟をし,最終的に判決で貸金業者側の主張は否定され,過払金利息を含めて800万円近い金額全部を回収した例があります。

もともと無いと思っていたお金です。慌てて少額で誤魔化されるより,やれるところまでやる方が後悔はないでしょう。

過払金は貴重な財産です。貸付停止による消滅時効の主張がされたからといって直ちに諦めてしまうのは,実にもったいないことです。

各事務所はそれぞれの考え方に基づいて依頼者に説明していますが,実際の裁判実務状況とかけ離れた消極的な見込みを伝えるのは問題があります。

単に貸付停止がされただけではない事案など絶対に時効が否定できるというものではありませんが,単に貸付停止がされたからといって直ちに諦めなければならないような争点ではありません。

貸付停止による時効を主張がされたら,当事務所へご相談下さい。

なお,勝訴をお約束するものではありませんので,この点はご理解の上,ご相談下さい。