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過払金の消滅時効

 何事にも時効はつきもの。
 過払金に限って,過度に焦る必要はありません。
 過払金は,正しく理解し,冷静に請求しましょう。

 過払金の消滅時効は,取引終了時から10年です。

ですから,個々の過払金返還請求権に時効が迫っているかどうかは,取引が終了したのがいつかによります。一般的に「過払金の返還期限が迫っている」などと言うことはできません。

例えば,今から9年前に完済した場合,9年前に取引が終了しているので,あと1年で時効になりますが,今年完済した場合,時効が成立するのは10年後です。まだ取引が終了していない場合は,10年の時効期間が始まってすらいません。

これは過払金に限ったことではなく,例えば,貸金業者の貸金債権は,支払い期限から5年で時効になりますが,その貸金債権に時効が迫っているかどうかは,その貸金債権の支払い期限がいつかにより変わるので,一般的に「貸金債権の返還期限が迫っている!」などと世間に向けて宣伝することはできません。過払金も同じです。

ところが,平成27年頃,司法書士法人新宿事務所(代表阿部亮司法書士)が,あたかも平成28年で過払い金返還請求ができなくなるかのような広告を大々的に展開したため,誤解をした方が多数現れました。

当時多くの専門家から問題視されました。

平成27年8月1日に産経新聞は,「日本司法書士会連合会は「違反はない」との見解だが、幹部からは「紛らわしい表現でグレーゾーンだ」と疑問の声があがる。広告・CMを制作した司法書士法人新宿事務所は「指摘を検討し、誤解が生じる可能性があると判断した。近く差し替える」としている。」と報じ,日本司法書士連合会の幹部は個人的見解としながら「債務者の危機感をあおる一方、過払い金取り戻しを諦める人が出る可能性もある。公益性を優先すべき司法書士のCMのあり方としては問題」と話したことを報じています。

(参考:司法書士法人新宿事務所の指針を逸脱した報酬問題等重要!))

過度に焦らせる広告は,冷静な判断をさせずに依頼させようとするものであるものであり,専門家として誠実な態度ではありません。

また,平成28年で請求できないと誤解したまま,権利行使の機会を奪われている方も多数いるおそれがあり,極めて不適切です。

過払金の消滅時効は正しく理解し,冷静に請求することが大切です。

取引終了時から10年の経過で時効成立

過払金返還請求権は取引が終了した時(取引終了時)から10年の経過で消滅時効が成立します(最高裁平成21年1月22日判決)。逆に,取引終了時から10年経っていなければ,10年以上前に発生した過払金を含め取引中に発生した過払金は全部請求できます。

取引終了時は,以下のいずれかの時になります。

ただし,後述の通り,取引内容によっては,いつが取引終了時であるかが,激しく争われることがあります。

  1. 完済した取引:完済した日
  2. 未完済の取引:最後の入出金(返済又は借入れ)

2は,返済が最後で終わっているときはその返済日,借入れで終わっているときはその借入日になります。未完済で現在返済を続けている取引の場合は,最後の入出金(返済又は借入)から10年経っていることは通常ないので,消滅時効が問題になるのは,主に,今から10年近く前に完済した取引や今から10年近く前に返済を止めて放置している取引です。

「最高裁平成18年判決」は,消滅時効とは無関係

平成27年に,「最高裁が出した平成18年判決から来年で10年になるので,平成28年で過払金返還請求は時効になってしまうのですか?」というご相談を多く受けるようになりました。

なぜ,そのように考えたのか相談者に尋ねると「そのようなCMを見た」ということで,調べてみると,確かに,一般の方がそのように受け取るような広告がありました。これが先に述べた司法書士法人新宿事務所が出していた広告で,燃えさかる炎を背景にした扇動的なものでした。

最高裁平成18年判決は,過払金の消滅時効とは全く関係がありません。この最高裁判決は,利息制限法所定の利率を超える利率の受領を認めていた貸金業法の規定(みなし弁済)の適用をほぼ不可能にした判決です。この判決以降,貸金業者がみなし弁済を主張できなくなり,過払金返還請求をする上で特別の主張立証が不要になったことから,この最高裁判決は,過払金返還請求を容易にできるようにした判決とされていますが,消滅時効とは無関係です。

実際には,利息制限法所定の利率を超えて支払った場合に過払金(不当利得)返還請求権が生じることは,昭和43年に最高裁が判断しており,過払金返還請求は,貸金業法施行(昭和58年)後,間もない時期から行われており,最高裁平成18年判決は,当時既に盛んに行われていた過払金返還請求実務を追認したものです。

最高裁平成18年判決は,「みなし弁済は適用されず,過払金返還請求ができる」ことを決定づけたもので,その発生した過払金返還請求権が,いつ,時効になるかは,別問題です。そして,時効の問題点は,前記の最高裁平成21年判決により,個々の取引毎に「取引終了時」から進行します。

このように正しく理解していれば「最高裁18年判決から来年で10年。過払金の消滅時効が迫っている!」という説明が,前後がつながらない,おかしな説明であることが分かります

自分に与えられた時間を正確に把握して,焦る必要がないのに焦って依頼することは避けることが大切です。

取引の個数と消滅時効の起算点

10年近く前に一度完済したことがある人は注意が必要

取引終了時から10年で消滅時効は成立するので,1個の取引であれば,最後の取引日から10年経っていなければ消滅時効は成立しませんが,その取引が途中で何度か完済・解約・再開などがあり,取引が複数に分かれる場合,取引毎に取引終了時から消滅時効期間が進行します。

そのため,最後の取引日からは10年経っていなくても,今から10年近く前に一度完済したことがある人は,取引が分断した場合,一度完済した時から10年経っていると,その時までの過払金には消滅時効が成立します。

昨日完済したので,消滅時効は問題にならないと考えていたところ,着手時点から10年以上前に一度完済しており,裁判でその部分で取引が分断すると判断され,一度完済した時までの過払金に消滅時効が成立してしまう例は,少なからずあります。最悪の場合,一度完済後に再開した取引が法定利率内の取引の場合,過払金は発生しないので,結局,回収できる過払金は存在しなくなってしまった例もあります。

そのため,貸金業者は,取引の個数の問題,取引の一連性を必死に争ってきます。

(参考:取引の個数-一連計算と個別計算

10年近く前に一度完済したことがある人は,その時までの過払金に消滅時効が成立する可能性があることを念頭に,過払金返還請求の着手時期を決定する必要があります。

なお,一部事務所で,過払金の計算において,1個の取引としての請求が可能であるにもかかわらず,貸金業者側の主張に合わせて,最初から取引を複数に分けて計算した額のみを依頼者に報告する例あるので,依頼前に計算方法についての方針を十分に確認しておく必要があります。(参考:過払金減額の「裏協定」問題

10年近く前に借り入れができなくなった人も注意が必要

次の「過払金の消滅時効を巡る論点」「貸付停止措置について」をご覧ください。

過払金の消滅時効を巡る論点

過払金返還請求権の消滅時効の起算点は取引終了時ですが,いつが取引終了時かは,個々の取引の問題であるため,消滅時効の起算点がいつかが,争点となる場合があります。

なお,一部事務所で,過払金の計算において,消滅時効の起算点を貸金業者側の主張に合わせて計算した額を依頼者に報告する例あるので,依頼前に時効の起算点の捉え方についての方針を十分に確認しておく必要があります。

リボルビング払い方式以外の取引について

過払金返還請求権の消滅時効の起算点が取引終了時である根拠は,発生した過払金をその後の新たな貸付金に充当する合意(過払金充当合意)があるからです。ここで,特に1回払い方式の場合,貸金業者から1回払い方式については過払金充当合意があるので,取引終了時でなく,過払金発生時から個別に消滅時効期間が進行すると主張される例が多くあります。消費者金融系の貸金業者の取引はほとんどリボ払いのため,この主張は,主に信販会社系の貸金業者(オリコ,ニコス,クレディセゾン,ジャックス等)からされます。

貸付停止措置について

リボルビング払い方式の取引でも,支払いを滞ったことから,途中で貸付を停止され,返済のみを続けていた場合,最後の取引日からは10年経っていなくとも,貸付を停止した時から消滅時効期間が進行すると主張されることが,最近多くあります。

これは,上記最高裁平成21年1月22日判決が,過払金の消滅時効が取引終了時から進行する根拠として,過払金充当合意には,新たな借入金が見込まれる限り過払金をその都度請求しない合意が含まれていることを挙げているためです。

そのため,新たな借り入れができなくなった時点から,消滅時効が進行するという主張が出てきます。

裁判実務では単に貸付停止措置がとられているという事実のみで,貸付停止時から消滅時効が進行すると判断されることはまずありませんが,他の事情とあわせて貸金業者の主張を認めた際がん例が一部下級審レベルであります。

また,争点になるだけで,回収まで時間がかかったり,譲歩を強いられたりする恐れがあります。

そのため,10年近く前に新たな借入れができない状態になり,その後返済だけを続けている方は,不要な争点が生じないように,新たな借り入れができなくなった時から10年経過する前に着手することが重要になります。

貸金業者側の時効主張に沿った「過払金調査」「無料診断」に注意

~ 特に1回払い方式について ~

最近は,「過払金調査」「無料診断」などを謳って,過払金の調査(履歴取寄と計算)を引き受ける事務所が多数見られます。調査の結果,過払金があれば,過払金返還請求を受任して回収するというものです。

ところが,一部の事務所の「過払金調査」「無料診断」では,貸金業者側の立場による時効の有無を判断している例があります。

具体的には,例えば,貸金業者が10年前に一度完済している部分で消滅時効を主張する場合(あるいは予想される場合),実際には最高裁判例に照らして,一連の取引と十分認められる取引であるにもかかわらず,貸金業者側の主張に沿って,依頼者に,「一度完済した部分までの過払金は時効です」などと報告する例があるということです。

特に,最近問題なのは,信販系の貸金業者に多い「1回払い方式」の取引です。

1回払い方式について,裁判実務では,一連の取引と認められるのがほとんどです。ところが,裁判実務を無視して,過払金発生毎に消滅時効が進行するという貸金業者側の主張に沿って消滅時効の有無を判断して,依頼者に,調査の結果を伝える例が多くなっていることです。

実際に,ある信販系貸金業者について,ある事務所へ調査を依頼したところ,キャッシング取引には過払金はなく,ショッピング取引の債務約55万円があると回答され,再度,当事務所に依頼し直して,調べたところ,キャッシング取引には約100万円(過払金利息含めて140万円)の過払金がある事案であることが分かり,訴訟をした結果,過払金をショッピング取引の債務と相殺して,86万円を回収した例があります。この例では,その事務所は,1回払い方式の過払金は,発生毎に消滅時効が進行するという貸金業者側の立場に立っていたため,10年以上前に発生している過払金には消滅時効が成立し,10年以内の利用分はすべて法定利率内なので過払金は発生しないと判断していました。

しかし,1回払い方式については,一連の取引と認められるのが多数派であり,最初から,貸金業者側の立場で,時効の成否を判断すべきものではありません。債務が55万円残るのと,過払金86万円の返還を受けるのでは雲泥の差です。

つまり,仮にその事務所が,争点がなく手間なく容易に回収ができる事案だけを選別して受任しようとすると,貸金業者側が争ってくる取引については受任を避ける必要があるので,敢えて貸金業者側の立場で消滅時効の成否を判断することになるということです(単なる経験・能力不足の場合もありますが)。

どこに計算(調査)を依頼しても計算結果は同じだと思うと,知らないうちに,回収可能な過払金を請求すらせず放棄している恐れがあります。

時効の成否の判断は,信頼できる専門家へ依頼して判断してもらう必要があります。

消滅時効の中断方法

消滅時効期間の進行は中断させることができます。時効が中断すると時効完成が中断時からさらに10年先に伸びます。過払金返還請求実務で,時効中断方法として行われるのは,主に以下の2つです。

訴えの提起による中断

10年経過する前に訴えを提起(提訴)すれば,提訴時に消滅時効は中断します。原則的な中断方法です。ただ,過払金の額を把握しておらず,あるいは把握していても提訴までの準備期間がない場合は,次の方法が採られます。

催告と訴えの提起中断

10年経過する前に催告しておけば,催告から半年以内に訴えを提起すれば,催告時に消滅時効は中断します。催告とは,債務の履行を求める意思の通知で,通常は返還請求をすることです。催告した事実を立証しなければならないので,催告は,配達証明付きの内容証明郵便で行うのが一般的です。

今日時効期間が満了する場合など内容証明郵便では間に合わないときは,FAXで催告し,FAX機の通信管理レポート等,相手方に送信された記録を確保します。

催告日は,催告書が相手に到達した日です。

注意が必要なのは,催告しただけでは時効は中断せず,催告日から半年以内に提訴したら,催告日に時効中断の効果が生じるということです。

この点,催告で中断効が生じると勘違いして催告から半年経過させてしまったり,時効期間が半年間伸びると勘違いして催告から半年以内に提訴しなかったりしないように注意が必要です。

受任通知と催告

受任通知を送り,取引履歴の開示を受けたところ,受任通知時には10年経っていなかったが,取引履歴開示時には10年経っていたという場合があり,このとき受任通知が催告に当たるかという問題が生じます。

弁護士は,催告に当たる文言を記しておくので問題は生じませんが,単なる受任通知や曖昧な内容だと催告に当たらないと判断されるおそれがあります。

なお,催告とは,「債務者に対して履行を請求する債権者の意思の通知である」(我妻栄「新訂民法総則(民法講義Ⅰ)」ほか)。「この催告は,後日さらに明確な中断事由の生ずることが要件とするのだから,広く解するのが至当である」(同書)。「一般に債権の詳細を述べて請求する必要はな(い)」(我妻栄・有泉亨ほか「コンメンタール民法 総則・物権・債権」)ので,具体的な金額の明示ができなくても,債務の履行を求める意思の通知であれば催告に当たります。金額の明示がない請求は「全額」の意であり,また,通知時に金額が不明であれば「発生している過払金全額」の返還を求めておけば,明確になります。

なお,当事務所では,催告文言のある受任通知を送っていますが,さらに,時効が迫っていると分かっている事案については,受任時点で,受任通知とは別に,過払金全額の返還を求める「催告書」と題する書面を送ります(単に返還を求めるのみで取引履歴開示請求文言も入れません)。これにより後に貸金業者から「受任通知」は催告にあたらないとか,取引履歴開示請求の趣旨だなどと主張されることを避けることができます。

取引履歴開示請求だけでは時効は中断しない

過払金があるかひとまず調べようと考えて貸金業者に取引履歴の開示請求をしたところ,開示請求したときは10年経っていなかったが,履歴の開示を受けた時は10年経っていたという相談例があります。

取引履歴の開示請求は,それ自体は,過払金返還債務の履行を求める意思の通知ではないので,催告に当たらないと考えておく必要があります。

10年近く前に完済した取引や消滅時効が問題となりうる事案については,ひとまず取引履歴を取り寄せておくのではなく,すみやかに返還請求に着手する必要があります。

取引履歴が開示されたら「途中完済の有無」「最後の貸付日」「最後の弁済日」を確認
「最後の貸付日」までに中断措置をとるのが重要
預り金返還日,債権放棄日は「最後の弁済日」ではない

最後の弁済日(完済日)から10年経過するまで,まだ時間があるからといって,安心してはいけません。

まず,取引が分断すると分断された取引毎に,消滅時効が進行するので,取引履歴を見て,途中で完済した部分があるときは,それが分断する可能性が低いものであったとしても,消滅時効の争点を生じさせないため,途中完済日から10年経つ前に中断措置をとることが重要です。

次に,分断の争点がなくとも,貸付停止措置がとられたときから消滅時効が進行するという争点を生じさせないため,最後の貸付日から10年経過する前に中断措置をとることが重要です。例えば,完済日からはまだ8年しか経っていなかったとしても,最後の貸付日からあと1週間で10年経過するなら,1週間以内に中断の措置をとるということです。履歴上は,単に借り入れをしなかったのか,貸付停止措置がとられたのかは分かりませんが,取引履歴を見て,最後の貸付日から10年経過が迫っているときは,その期間が経過する前に中断措置をとった方が安全です。

最後に,完済取引については,取引履歴に記載されている最後の取引が預り金(おつり)の返還になっている場合があります。また,端数の約定残高を放棄した記録になっている場合があります。裁判では,おつりの返還日や端数を放棄した日ではなく,最後に入金した日が取引終了日と判断されると考えておく必要があるので,最後の取引が預り金(おつり)の返還や債権放棄額になっている場合は,最後の入金日から10年経過する前に中断措置をとる必要があります。

時効が心配なら,訴訟回収中心の弁護士を選ぶのが賢明

上記の通り,時効の中断には訴訟提起が不可欠です。

そのため,時効中断方法を正確に理解しており,速やかに提訴してもらえる訴訟回収中心の事務所へ依頼することが大切です。

また,司法書士の場合,過払金の額が140万円を超えると扱えなくなるので,予想外に高額の過払金が発生している場合,弁護士への切替などのために,速やかな提訴ができないおそれがあるので,権限に制限のない弁護士へ依頼する方が賢明です。

改正民法と過払金の消滅時効

平成29年5月26日改正民法が成立し,公布から3年以内に施行されます。

改正法では,

で,消滅時効が成立します(改正法166条1項)。いずれか早い方で成立するので,債権を行使することができる状態になったと同時にそれを知った場合が最短となり,債権を行使することを知らないまま10年経過した場合が最長となります。

現行法では,過払金は債権を行使することができるときから10年で時効になりますので,改正民法では,知った時から5年で時効が成立する場合が加えられたことから現行法よりも短期間で時効が成立する場合が発生することになります。

では,改正民法施行と同時に,すべての債権の時効期間が変更されるかというと,そうではありません。

改正民法の付則に経過措置の定めがあり,改正民法の施行日前に債権が生じた場合はその時効期間は現行民法の規定が適用されます(改正法付則10条)。そのため,施行日前に完済して発生した過払金は,従前通り,完済から10年で時効になります(施行日後に,権利行使できることを知ったとしてもそこから5年で消滅時効が成立することはありません)。これに対して,施行日後に完済して発生した過払金は,改正民法が適用があり,途中で権利行使できることを知ったらそのときから5年で消滅時効が成立することになります。

そのため,取引が複数に分かれるで,前の取引は施行日前に終了し,後の取引は施行日後に終了した場合,前の取引の過払金には,現行民法の時効期間の規定が,後の取引の過払金には改正民法の時効期間が適用されます。そのため,分断取引では事案によっては,施行日後に発生した過払金の方が,施行日前に発生した過払金の方が早く時効が成立する事態も生じ得ます。

では,施行日前の時点で実際には過払状態である取引を,それとを知らずに施行日をまたがって支払い続けた場合,施行日前に発生した過払金と施行日後に発生した過払金が存在することになりますが,この場合,消滅時効期間の定めはどのように適用されるでしょう。

形式的に当てはめれば,施行日前に発生した過払金には現行民法が,施行日後に発生した過払金には改正民法が適用されることになります。しかし,最高裁は,過払金充当合意について,発生毎には返還せず,取引終了時にそのときの過払金を返還する合意としてしるので,取引終了時に確定的に過払金返還請求権が発生すると捉えることもできます。そうすると,施行日をまたがって過払金が発生している場合でも,債権が確定的に発生したのが取引が終了した施行日後になるので,施行日前に発生した過払金を含めて全てに改正民法の時効期間が適用されると解することもできます。

施行後に履歴開示請求した場合のリスク

改正民法の施行後,その適用がある過払金については,貸金業者は,権利行使可能であること顧客が知っていたことを立証できれば,知った時から5年間の短期の消滅時効を主張できることになるので,顧客が取引履歴の開示を受けた場合,開示時点で顧客は過払金返還請求権を行使できることを知ったと主張してくる可能性があります。

一連取引の方が不利になる場合も(貸金業者と請求者の立場のねじれ)

現在の過払金実務は,ある意味では,消滅時効が成立する過払金を多くできれば貸金業者側の勝ち,消滅時効が成立する過払金が少なくできれば請求者側の勝ちということができます。現行法では,一連取引は,消滅時効が成立する過払金が少なくなり,分断取引は,消滅時効が成立する過払金が多くなります。そのため,現行法下では,請求者側は一連性を,貸金業者側は分断を主張します。

ところが,改正民法施行後は,一連取引とされると消滅時効が成立する過払金が増え,分断取引とされた方が消滅時効が成立する過払金が少なくなる場合が生じ得ます。

例えば,改正民法施行日前に一度完済し(第1取引),施行日後に再開してまた完済し(第2取引),過払金返還請求できることを知って5年後に提訴したとします。このとき,第1取引と第2取引が一連の取引であれば,すべての過払金に改正民法が適用され,知ってから5年経っているので全ての過払金に消滅が成立します。これに対して,分断取引の場合,第1取引の過払金には現行民法が,第2取引の過払金には改正民法が適用されるため,第2取引の過払金には消滅時効が成立しますが,第1取引の過払金は取引終了から10年経っていなければ,消滅時効は成立しないことになります。この場合,請求側は,分断取引であると主張する方が利益になり,貸金業者側は,一連取引であると主張する方が利益になり,これまでの一連性を巡る貸金業者と請求者側の立場が逆転します。

その他の場面でも,同様の現象が生じる可能性があるので,改正民法施行後は,改正民法の適用の有無を確認した上で,争点への対応を決めていく必要があります。

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